VOL.166 / 2025.08.22
ドレスハーセルフのパターンが特別な理由
桐郷・旭日昇工場を訪ねて
ドレスハーセルフを初めて着た方からは、
「シルエットがきれい」
「スタイルが良く見える」
「細かなところまで作り込まれている」
といった声をよくいただきます。
生地の質や縫製へのこだわりはもちろんですが、実はパターンへのこだわりこそ、ドレスハーセルフらしさを生み出す大きな理由のひとつです。
低価格や短納期が求められるブランドでは、パターンづくりの工程が簡略化されることも少なくありません。本来であれば手間をかけて立体的に考えるべきところを、効率重視のデジタル化や平面的な裁断で済ませてしまうケースも増えています。その結果、細やかな調整やフィット感の追求が不足しがちに。特にドレスハーセルフが得意とする、布を実際に立体的にドレープさせながら形を探っていく手法は、今では希少になりつつあります。
では、ドレスハーセルフのパターンはどう作られているのか?
その秘密を探るため、私たちは長年のお付き合いがある、中国・桐郷の工場を訪ねました。
中国・浙江省ジャーシン地区、桐郷(とうきょう)市。
ここは世界のシルク産業を支える街であり、今も数多くのシルク工場が立ち並んでいます。世界のシルク製品の約80%が中国で生産されているといわれていますが、その中でもドレスハーセルフの服を手がける「旭日昇(あさひのぼる)」工場は特別な存在です。

旭日昇には、特にシルクのカットソー生地を専門に扱う協力工場があります。
中国でもこの分野に特化した工場は非常に珍しく、ドレスハーセルフで人気の「ウォームシルク」も、ここから生まれました。
この工場は常に新しいシルク生地の開発に挑戦しています。効率重視の最新編み機では再現できない風合いや特性を引き出すために、あえて昔ながらのゆっくりと編み上げる機械を使い続け、シルク本来の美しさや柔らかさが際立つ特別な生地を作っています。旭日昇は、この貴重な工場と長年にわたり強い信頼関係を築き、安定した品質と独自の素材開発を実現してきました。
旭日昇そのものは、わずか5〜6名という小規模な工場です。
しかし、そこで働くのは全員がシルクを知り尽くした職人たち。縫製には必ずシルク専用の針を用い、裂けやすく伝線しやすい素材を、一着一着丁寧に仕上げていきます。
大量生産に流れてしまえば、このような高度な技術を持つ縫い子は育ちません。だからこそ旭日昇は、規模の小ささを強みに変え、職人の技を守り続けているのです。

ドレスハーセルフの服づくりで重要なのがパターン(型紙)です。
旭日昇のパタンナー陳建利さんは、縫製歴30年、パターン歴15年。Tシャツひとつをとっても、前後をほんの少しずらしたり、素材に合わせて縫い代の角度を調整したりと、細部に徹底してこだわります。シルクは地の目に逆らうとすぐに崩れてしまうため、縫い子が縫いやすいように工夫を凝らすことも欠かしません。だからこそ、着心地がよく立体的な仕上がりになるのです。

さらに特筆すべきは、ドレスハーセルフデザイナーとのやり取りです。
デザイナーの佐々木は仕様書を単なる数値ではなく、布にピンを留めながら立体的に考えます。その感覚的な発想を、パタンナーが理解し形に落とし込む。佐々木は「シルクサテンは特に美しく、工場から素材の提案があるのも素晴らしい。勉強熱心で本当に生地が好きだと感じる」と語っています。
デザイナーと工場の二人三脚が、ドレスハーセルフ独自の服づくりを支えています。

工場を率いるのは、社長の姚(ヨウ)学峰さん。
35年以上にわたりシルクと向き合ってきたベテランで、若い頃は自らパターンを専門に学びました。シルクは繊細で、縫製には最低でも3年以上の経験が必要とされますが、姚さんは母親がシルク縫製に携わっていたこともあり、幼い頃から自然にその知識を身につけてきました。だからこそ、糸のテンションやミシンのスピード調整など、シルク特有の問題にも次々と解決策を見出してきたのです。

現在、多くの中国工場ではパターンを外注するのが一般的ですが、旭日昇は自社でパターンを引くことにこだわっています。外注では素材に応じた細やかな調整ができないからです。寸法を守るだけでなく、シルクに合わせた立体的な工夫を加えること。その違いが、同じ「Made in China」であっても、他のブランドとは一線を画す品質を生み出しています。
ドレスハーセルフの母体である山忠と旭日昇との信頼関係は10年以上にわたり続いています。
厳しい品質基準を共有し、ものづくりへの姿勢をともに磨いてきたからこそ、今もなおシルク100%の服づくりに挑み続けることができるのです。

ドレスハーセルフのパターンが特別である理由。
それは決して表には出ない職人の知恵と経験、そしてデザイナーとの真摯な対話の積み重ねにあります。
繊細なシルクと誠実に向き合い、着る人に寄り添う服をつくる。
そこに、ドレスハーセルフならではの美学が詰まっているのです。